砂の鎖

『そうか……』


桑山さんはとても静かにそれだけ零した。

いつも自信あふれる桑山さんは、私が経済力も社会的立場も遥かに優れている桑山さんよりも、拓真を選ぶと言うことが許せないのだろうか。


……それでもこれは、私が選んだ結果ではない。
それでもこれは、私にとって一つの幸せのカタチだ。


拓真は幼い頃、ママの友人として、初めて私を認めてくれた他人だった。

拓真はママを亡くした三年間、私を支えようとしてくれた唯一の他人だった……


「もったいないお話、ありがとうございました」


私が静かに、電話の向こうの、姿が見えてるはずもない桑山さんに頭を下げる。
優しく初夏を迎える風が、私の黒い髪を軽く揺らした。


梅雨を迎える前の乾いた心地よい風は、複雑な感情を抱える私の心とは正反対で。

人の気も知らず子供みたいに笑っていたママみたいだ。

あの人の、優しさみたいだ……


『……亜澄さんは、本当に、高校生の頃の薫さんとそっくりだ……』

「え……?」


暫く黙っていた桑山さんの言葉に、私は驚きで思わず顔を上げた。


『薫さんもそう言って、宗也の処にきたんだよ』

「……そう、や……」

『懐かしいな……』


そうして桑山さんは、当然のことの様に懐かしむように優しい声でつぶやく。
それはとても予想外な言葉だった。

桑山さんが、高校生の頃のママを知っている?


「桑山さんは、母のお客さんじゃないんですか?」

『そんな勘違いをしてたのか?』


桑山さんは今度は、不愉快だという気持ちを隠さずに低い声を出した。
少し私は肩を竦めた。

それでもママに惚れぬいた客の一人ではないのなら、私の実の父親でもないのなら、桑山さんが私に構う理由は全く想像できない。

そもそも私のことを大切な人の娘と言っていたのだから……
客では無くて、恋人でもなくて、それでもママに純粋に恋焦がれていたとか、そういうことだろうか……

それでも……