砂の鎖

『ああ。私は残念ながら、貴方の父親では無いよ……だが』


暫く何かを考えていたらしい桑山さんは私の想いを肯定し、何か続けようとした言葉を今度は私が遮った。


「分かりました。それではお断りします」

『え?』

「養子の話は、お断りします」


信じられないという声をあげる桑山さんに、私ははっきりと繰り返した。
そしてその私の言葉に、真人はますす目を丸くした。


『何を言ってるんだ! 条件はだれにも負けない筈だ。君はその決断が自分にどれだけ不利か分かっているのか!? 彼の事もあるだろう!』

「……私が、たく……養父のことを考える必要がありますか?」

『何を……』


桑山さんが言っていたことは恐らく全て事実だ。

私の存在が拓真にとって昇進とか、そういう将来の可能性を阻んでいるのかもしれない。
拓真と暮らしている限り、私は確かに下種な推測をされ続ける。


「桑山さん。私は須藤薫の娘です。そして須藤薫は麻生拓真を選びました」


それでも、ママが拓真を選んだんだ。
拓真は、ママを選んだんだ。

それなのに私が拓真に気を遣う必要があるだろうか。


拓真が未来を望んでいると誰が決めた。

私が未来を望んでいると、誰が決めた。

そんなものは私たちに関係ない誰かの理想に過ぎない。
それを私たちが受け入れる必要なんてない。


『それは……』

「若くて頼りないし情けないし、経済力も桑山さんと比べたら雲泥の差なんでしょうけどね……周りからも散々嫌なこと言われるし……」

『そうだろう? だったら……』

「でも、子供は親を選べません」


はっきりと言い切った私に、今度こそ桑山さんは黙った。

確かに非常識だ。
私と拓真の関係は普通じゃない。

それでも、どんなに抗っても、どんなに疎ましく思っても、子供は親を条件でどちらがいいか選んだりはできない。


「母が拓真を選び、拓真が母を選んだのなら、私の家族はあの人なんです」

『亜澄さん。それは薫さんが生きていた時の話だ』

「いえ。違います。母は死を目前にして拓真を選んだんです。その時貴方は母の傍にはいなかった。母を支える人ではなかった」


しかも拓真は、死を目前に控えたママの籍に入った。
私を残して自分が死ぬことを知ったママが、拓真を選んだ。

ママは、自分の死を看取る相手に、他の誰でも無い拓真を選んだんだ。