砂の鎖

すぐに着信音はプツリと途切れ、男性の声でもしもし、と応答する桑山さんの声が聞こえた。
私は性懲りも無くドキリと心臓が震え逃げ出したくなってしまい、それでも私を見つめる真人の視線に思い直した。


「桑山さん。私です。須藤亜澄です」


真人がいなければ私は、電話がつながる前に切ってしまっていたかもしれない。そう思った。


『亜澄さん。こんなにすぐ電話がかかってくるなんて思ってなかったよ! 決心してくれたか?』


私が名乗れば桑山さんの声はとても嬉しそうな声をあげた。


『はい。桑山さん。養子の話ですが……』


そして目の前にいる真人は私の言葉に少し眉を顰めた。
そんな真人と目があって、私は少しだけ微笑んで見せた。
目の前でこんな話を唐突にされて不可解だろう。真人の表情にはそんな疑問が浮かぶ。

私が、真人の前でなら話せると思ったこの気持ちは、真人には伝わらないかもしれない。


『ああ。亜澄さんが決心さえしてくれればすぐにでも手続きをはじめられるように弁護士にも話をしてあるから安心しなさい。一度うちに来なさい』


桑山さんは、自分の提案が断られる筈が無いものだと信じているのだろう。
正しいものだと信じているのだろう。

私の言葉を遮って話を進めようとする桑山さんに私はやはり戸惑ってしまう。


「いえ。その前にひとつお伺いしたいことがあるんですが……」

『ああ。条件のことかい?』


けれどその戸惑いを隠すように、私は冷静を装って訪ねた。


「桑山さん。貴方は、私の実の父ですか?」


私の言葉に、いつも私の言葉を遮るように話す桑山さんが息を呑むように黙った。
そして私を見つめていた真人も、今度こそ驚き目を見開いた。


「……違いますよね?」


私は、桑山さんが実の父親ではないかと思っていた。

けれど昨日の拓真の話では、実の父親は桑山さんではなく『宗也』と言う名前の男性だと分かった。
桑山さんは宗也ではなく“桑山稔”という名前で選挙活動をしている事を私も知っているし、桑山さんはオイルライターを使ってはいなかった。

桑山さんの煙草は、セブンスターでも無い。


それなら本当に、私の父親ではないのだろう。