砂の鎖

***


「……亜澄」


私は昨日の真人の様に、校門の門柱に寄りかかって待っていた。
今度は、私が、真人のことを。


「うん……」


一言、そう答えた。
真人はニコリと、いつもの笑顔を作る。


「今日は買い物行くの?」

「……今日はいい」


真人がいつもの笑顔を“作った”のだとはっきりと分かった。
この瞬間初めて、真人の笑顔は彼にとっては武装だったのだと気が付いた。

真人の明るい笑顔はいつも真っ直ぐに素直に向けられたものではない。
心のうちを悟られたくない時に、場の空気を換えたい時に、相手を自分のペースに巻き込みたい時に。
そうした時にも意図的に作られていた笑顔でもあったのだ。


私は真人を見ていたつもりで、余り見ていなかったのかもしれない。


空は薔薇色に染まっていた。

よく晴れた日の夕焼けは鬱陶しい程に綺麗だ。


私たちは無言で、それでもいつも通りにスーパーに向かって歩き出した。
真人との間に漂う空気は酷く重苦しい。

私が買い物がある日はスーパーに二人で行った。
買い物が無い日も真人の塾の日はスーパーの前のバス停からバスに乗って、真人にも何もない日は私の家まで二人で帰っていた。

たった一カ月。

それだけの時間だけど、私は楽しかったんだな、と思う。
こんな重苦しい空気になって今更、私はあの時間を楽しんでいた事に気が付いた。