砂の鎖

「薫さんはあずに話してないの?」

「……」


私はそれには答えなかった。

ママは私に何一つ、大事な事を話していかなかった。

ママと二人で生きてきた。
そんなのは子供だった私の独りよがりでしかなかった。

それに私が傷ついた事を、拓真は知っている筈だ。


「あずには話さないか……」

「信用してなかったみたいだからね。私のこと」


知っている筈なのに、わざわざ聞いてくる拓真が無神経に思えて。
不貞腐れた態度をとれば、拓真は少し困ったように苦笑した。


「そうじゃないだろ。あずが大事だったから話すのに勇気が必要だったんだよ」


どうせその場しのぎに甘ったるいことを言っているだけだろう。
そう思って拓真をうろんな瞳で見る私に、拓真は優しく瞳を細める。


「大切な人であればあるほど、心のうちを話すのは勇気がいるんだよ」

「……」


ママがどう思っていたのかは分からないけれど、拓真のいう事は理解できるような気がした。


「それに薫さんは、あずは自分だけのもの、みたいに思ってたからね。あずに父親の話なんてしたくなかっただろうな……」


拓真の言葉は本当に一々甘ったるい。
私に、とても耳障りがいい言葉ばかりを選ぶ。


「そう思わないと立っていられなかったんじゃないかな……」


ママがそんな風に思っていたかもしれないなんて、私が考えたことは一度だってない。


それでも拓真の声はとても懐かし気で優しくて、そして愛おしさに満ちていて……
だから、それが私を慰めるための気休めではなくて、本当だったかの様に思えてしまう。
少なくとも拓真は、そう信じているのだろう。


拓真に、ママは何を話したのだろう。

拓真は、私が知らないママを知っているのだろう。

拓真とママは、どんな話をしたのだろう……