砂の鎖

私の言葉に、一瞬驚いた様で僅かに目を見開いて、それから拓真はニコリと笑顔を作った。


「目の前にいるじゃないか」

「そうじゃ、なくて……」


拓真の笑顔はいつもの甘ったくるて優しいだけの笑顔じゃなくて、取り繕ったものだという事は簡単に分かる。

微妙な表情の違いに彼の心情を推察できる程度には、私は拓真の事をよく知っている。
何だかんだと言いながら三年、二人きりで暮らしてきたのだから。

拓真はその笑顔は少し寂し気だった。


「拓真……」


聞くべきじゃなかったと、少し後悔をした。

それでも、いつかは聞かなければいけなかったことだ……



「あずはさ、やっぱり本当のお父さんがいい?」

「え?」


その笑顔のまま、拓真は私にそう言った。


「……もし、本当のお父さんに会えたらさ、俺はもういらない?」

「拓真? 何言ってるの?」

「そりゃそうだよな……」


そう言って、拓真はふと笑顔を取り繕う事ができなくなり俯いた。


……そうじゃない。

私に本当の父親がいたとして、いらなくなるのは拓真ではなく私の方の筈だ。


拓真がいなければ、私はこの家に住み続けることはできなかった。
拠り所の無い中学生だった私はきっと施設に行っていた。

拓真はママが死んだ時、この家を出て行っても良かった。自由になって良かった。
拓真がそれをしなかったのは、私がいたからだ……

私はずっと、気が付いていて……拓真に甘えていた。


桑山さんが言う通り、私がいなければ拓真には自由な未来がある筈だ。


それなのに、再び顔を上げて私を見た拓真は酷く傷ついた様に、一瞬自嘲的な微笑みを見せた。


「拓真あの……」

「あずの父親、か……」


それだけ言って、拓真は黙ってしまった。


私がどんな暴言を吐いてもいつもバカみたいにヘラヘラしている拓真が、笑顔一つ見せず黙り込んでしまった。

まるで、ひどく傷つけてしまったような気持ちになる。
とても心許なくなる……