砂の鎖

***

「お帰りあず。遅かったね」


その声と同時に玄関の灯りが点き、思いのほか放心していた私はビクリと肩を揺らした。


「拓真。……どうしてもういるの」


今日に限って拓真が私より先に帰っているなんて……
桑山さんから何か拓真に連絡が入っていたのだろうか。

伺うように聞けば拓真は少しムッとした顔をした。


「偶には早く帰って娘との団欒を楽しもうと思うのがおかしい?」

「……うざ」


私がそう言えば、拓真は安心したようにいつも通りの甘ったるい笑みを浮かべた。


「久しぶりの学校で友達と盛り上がってた?」


拓真は桑山さんから何かしらの連絡を受けたわけでは無く、ただ単に謹慎明けの私を心配して早く帰ってきたということだろうか。
拓真の性格からしてそれは不自然ではない。

それなら、拓真は私が桑山さんと会っていたなんて事は思いもしないかもしれない。
それでも私は、桑山さんと会っていた事を拓真に正直に話すべきだろうか。

迷っていれば、スクールバッグを握る手にじわりと汗がにじんだ。


「……まあ……」


迷ったままに曖昧な言葉を漏らした私に拓真の表情が曇る。
その表情にまずい、と思った。
思った瞬間、迷っていたふりをしていただけで、本当は話したくなかったのだと気が付いた。


「あず……」


拓真は不機嫌に低い声で私を呼んだ。

私は拓真から目を逸らし、次の言葉に備えてスクールバッグを握りなおす。
桑山さんからの手紙を隠したスクールバッグは、やけに重く感じた。