砂の鎖

「昇進にも関わっているだろうね。彼……麻生拓真君、だったかな」

「今は、須藤です」

「そうか……」


私の反抗に、少しだけ驚いた様に表情を変えた。
今彼が、拓真のことを旧姓で呼んだのはわざとだろう。
彼は私にどんな反応を期待していたのだろうか。

すぐにまた、いつもの悠然とした表情に戻る。


「彼は君から見れば随分大人に見えるかもしれないがね、世間的に見れば彼もまた、未来ある若者だ。彼の将来も考えてあげるべきではないかな?」

「……」


私がこの紳士を避けることが不自然で、この人が言っていることは正しいのだろう。
それでも私はこの人が苦手だ。

この人が、とても怖い。


「もちろん、私の養子になれば学校も今よりいいところに編入できるよう手配しよう。亜澄さんは非常に優秀な生徒だと聞いているよ」

「……」

「大学も、君の才能を存分に伸ばせる学校を選べばいい」


桑山さんは簡単に言う。

私が頭を悩ませていたことも、この人の前では何も無かったことになる。
私はどうしてこの人をこんなにも苦手だと思うのか、その理由が以前はよく分からなかった。


「でも……桑山さんの御家族は……」

「もちろん、家内にも子供たちにもよく話はしてあるよ。皆、亜澄さんを歓迎するつもりだ」

「……」

「亜澄さんがどうしても、家族に気を遣うということであれば別にマンションを用意してもいい。ずっと気ままな生活をしていただろうから抵抗がある気持ちもよく分かるよ。徐々に家族としての時間を持っていけばいいだろう」


彼の言葉は全てがとても常識的だ。
そして非常識な程に、私にとって最良だ。

非の打ちどころなんて一つだって無い。


それでも私は、いつからからこの人が苦手だと思う本当の理由に気が付き始めていた。