「前みたいに、入水自殺しようとしてるんじゃないかって思ったよ」


 「前みたいに、って……。私は自殺しようとしたことなんて、一度もないのに」


 私は苦笑した。


 しかしながらさっきまで喧嘩をしていた男を相手に、心の底からは笑うことなどできない。


 この頃の私は、色々な面で行き詰っていた。


 水城島に関して私が発表した博士論文が、学会に全く相手にされなかった。


 大学院卒業を控え、私は焦っていた。


 それにこの清春が、いまだ私に対する態度をはっきりさせない。


 出会ってから十年。


 すでにもう友達以上の関係なのに。


 その先に踏み出そうとする気持ちが、彼には見受けられなかった。


 年月の経過と共に、私は焦り始めていた。


 何もかもリセットしてまた新たな人生を踏み出すには、そろそろラストチャンスのような年代に差し掛かっていたこともあって。