「その先輩が付き合ったという一人の人は、なぜわかれたのですか?一人しか付き合ってないのなら、その人がとても大切だったのでは……?」



聞くと、
雪菜を見つめていた馨の視線は、空へと戻った。

「こんなこと言ったら、もっとだらしないと言われるかもしれないんだけどね、実はもともとその彼女のこと好きじゃなかったんだ」




バツが悪そうに、馨は言う。


「俺は昔から好きな人がいて、その好きな人と、彼女が似ていたから付き合ったんだ。」


雪菜と馨のあいだに新春の風が吹き抜ける。


「先輩。それはやってはいけないことだと思います。その好きな人にも、彼女さんに失礼だと思います。」

「うん…ゴメンネ。」
馨は、雪菜に謝る。


「なぜあたしに謝るのですか」


雪菜がポツリと尋ねると、馨は少し遠い目をした。

「先輩、これからの恋愛は、本当に好きな人だけ受け入れてあげてください。」


(きっと、誰かの影を見ながら、好きでもない人と付き合うのは、寂しい)

「…そうだね」

ふふっ、と馨は笑う。

「じゃあ……今日だけは、雪菜ちゃんに甘えさせて…?」

馨に雪菜はぐっとだきしめられた。


(先輩、何かあったんだろうか…)

いつも何やら物憂げに考えているような所はあるが、このような甘えてくるようなハグは今までなかった。



しかし、馨とは小学6年からの付き合いなのと、幼かったころからハグはしてたので特別珍しいことではない。
抱きしめられ、特に雪菜は拒まなかった。

雪菜は、さっき馨にされたようにあたまをぽんぽん、となでてやる。

「先輩……。」


馨は雪菜の首筋に顔を埋める。



(?)


なにか、馨はぼそっとつぶやいたきがする。
雪菜にははっきり聞こえなかったが、

何故か馨の心が、
“雪菜ちゃんは残酷だよ”と言っているような気がした。