百合の花



「……お仕事しゅーりょー」



そう呟いて、ベッドから降りる。


タオル一枚の格好のまま、桐生鈴花は携帯をタップして電話をかける。


ツーコールで出た相手に、彼女は叫んだ。


「起きてるー!?」

『あ…ふぁ…起きてる、一応』


霞んだ男の美声が、彼女の鼓膜を揺さぶった。

ああ、相変わらず綺麗な声。


思わず顔が綻ぶのを感じた。



「終わったよ、仕事」



『…ああ、そう』


彼女は目線を男に移した。

口を開けてよだれをたらりと垂らして、涙を浮かべながら心臓を抑えたポーズで絶命した。

男に恨みはない。

ただ、仕事で殺さなくてはいけなかった。

それだけだ。


『ミスは?対処するから言え』


「前提で話を進めんなゴラ!」


身分を隠したいという理由でをカツラをつけ、ただでさえばれないようにしてきた。

加えて、男に言っていたのだ。

『ご内密に話をしたい』と。

売れっ子だから、あまり外部に特待遇でCMに出たなんてバレたくない。

そんな馬鹿みたいなことをマネージャーのふりをした彼が言えば、一般人は騙される。