百合の花



きぃんと、心臓が痛む。


握りつぶされたような、針で刺されたような。

どちらとも言えない痛みに、首ではなく胸を抑えた。




「――残念」




妖しく笑う桐生鈴花から目を離さない。
否、離せない。



「ごめんなさい、私で。もし、シンデレラ…薔薇だったら、最期に見れた景色はもっと美しかっただろうに」



百合じゃあ見劣りしちゃう、なんて。


髪をかきあげながら彼女はいう。


「ぐっ、は…」


男は半分も言葉を理解していなかった。


ただ、息が欲しくて。


喘ぐことしかできない。



「ああでもよかったですね。心臓麻痺かな?楽な死に方で」



最期に聞いた声すらも、男は理解できなかった。


理解できていれば、犯人を恨めながら死ねただろう。


桐生鈴花が殺したのだ、と。


そう思いながら死ねただろうに。