その女子生徒、木川奈津は、雅彦の恋人だった。


雅彦が生きていた頃は、この女が彼の体に触れるたびに、嫉妬に狂い、何度も殺してやりたいと思ったものだった。しかし、いまはもう、そんな気持ちは消えていた。たたかれたことに対する怒りも、まったくない。


なぜなら、自分とちがって、木川奈津はもう二度と、雅彦に会うことはできないのだから。


そのことを考えると、体中が優越感で満ちてくる。いままでの彼女に対する恨みなど、全然気にならなくなってくる。


「何とか言いなさいよ」


木川が、また腕をふりあげた。男子生徒達が間に入って、それを止めてくれた。

「離して、離してよ。あいつを殴らせて」


男子生徒達に引きずられながら、木川奈津は会場の外へ連れて行かれた。


羅利子は、無言でそれを見送った。