* * *

 日和も美海も寝てしまい、一際静かになった空間で、いつもならば眠れるはずなのにそうではなかった小春はゆっくりと起き上がった。

(…うーん、むしろ頭が冴え渡ってしまったわ…。)

 圭介のことを嫌っているようにはもちろん見えない。それでも一線、ある。そんな風に見えてしまっては首を突っ込まずにいられなかった。それは性分としてそうなのかもしれないと小春は思い始めている。

(ビールでも飲むか…。)

 二人を起こさないように気を付けて、小春は自室を出た。
 涼しさが欲しくて縁側に出ると、縁側には先客がいた。

「あら、圭ちゃん。」
「春姉か。」

 12時を少し過ぎた家は静かだった。圭介の持っていたグラスの氷がからんと音を鳴らした。

「美海はもう寝た?」
「うん、ぐっすりよ。」
「ならいいんだけど。」
「心配性だなぁ。とって食いはしないわよ。」
「そこは心配してないけど。」

 圭介がグラスの水をあおった。涼しい風が吹き込む。

「ねぇ、圭ちゃん。」
「んー?」

 言おうか言うまいか、躊躇う気持ちもないとは言えない。それでも伝えるのは、二人の幸せを自分なりに思うから。

「…美海ちゃんは、ちょっと難しい子かも。」
「ん、そっか。でも、なんとなくそんな感じ。」
「あら、意外な反応。」

 落ち着いた反応は予想外だった。

「…嫌いじゃないとは言えるけど、好きだとは言えない。怖がっているみたいにも思える。」

 なかなかに鋭い観察眼を持つ弟に、小春は驚いた。

「そんなに俺のことを好きじゃないから、ともとれるけど。」
「あらあら、自信喪失?」
「美海については自信なんてほとんどないよ。」

 珍しく饒舌な弟に、小春はまたしても驚いた。いつも淡々としていて、表情をあまり変えない人だったはずなのに、美海のことではとてつもなく優しい顔をしたり、こんなにも心配そうな顔をしていたりする。

「…確認、できないからね。」

 肯定も否定もせずに圭介は口を開いた。

「だとしても、急かすつもりはない。それに、諦めるつもりも。」
「美海ちゃんのどこがそんなに好きなの?」
「春姉、あんまり好きじゃないの?」
「いいえ。とっても可愛くて、優しくて好きよ。でも圭ちゃんにはそんなに単純に映ってないでしょ、美海ちゃんは。」

 圭介はまた肯定も否定もしなかった。

「目が離せない。…背伸びしすぎてしまうから。そして、出来れば一人で抱え込まないでほしいと思う。美海が自分で自分を大切にできない分、大切にしたいと…思うときがある。」

 興味深い返答に、小春はビールを一口飲んだ。