痴漢じゃない!
強盗だった!
「待て。その籠の中身を儂に!」
「誰が待つか馬鹿!」
自転車に跨がり、闇雲に漕ぎ出した。
ライトがないせいで、足元が全く見えないけど、仕方ない。
本当に今日は付いてない。
皇汰は岸六田先生とキスしちゃうし、
猫みたいな君は慰めてくれないし、
おまけにデブ猫は重いし、
強盗には遭遇しちゃうし。
あの角を曲がれば一直線でアパートに着く。
更に足に力を込めて角を曲がろうと右側に体重をかけた時だった。
「結愛!」
「うわっ」
曲がり角から人影が飛び出してきた。
「皇汰っ」
けれど私の自転車は急ブレーキで宙を浮いた。
最後に見た景色は、あのでぶ猫が宙回転してふわりと着地する場面だった。



