「どうしたの?」
絵の具がいっぱい付いた、夜の空みたいな真っ黒なエプロンを脱ぎながら、猫みたいな奴が不思議そうに首を傾げる。
「さっき渡り廊下を叫びながら全力疾走してたね。あのまま此処まで駆け抜けたの?」
元気だねってクスクス笑う。
それだけでホッとした。
この、日常から切り取られたような、空の下。
此処だけが私の平常心を保たせてくれる。
「皇汰が……キスしてたんだ」
「うん」
「私……」
ぽろぽろと涙が溢れてきた。
「私、自分が思ってるより、皇汰が好きなのかも」
声に出したら、それは現実になり空に響いた。
薄暗い夜に染まりつつある空に、溶け込んで浸透していく。
「だよね」
猫は静かに口元だけ笑った。



