「葵!」

カンカンと梯子を登りながら呼び掛けると、パンを咥えた葵が、両手に筆を持って私を振り返る。
葵の隣に座ると、ラフまで仕上がった絵を覗き込む。


皆でおにぎりを食べた、あの花忘荘の絵だ。
葵はパンを飲み込みながら、その絵を片付けるとスケッチブックを取り出した。


「じゃあ、結愛描いていい?」

「良いけど私、食べるのは止めないからね」

「いいよ。どんな結愛も可愛いし」

素面でそんな歯の浮くような台詞を吐きながら、葵は私を描き出した。


普段のふわふわした雰囲気も好きだけど、絵を描く真剣な葵も好きだ。

だから、たこ焼きパンを食べながらも目で追いかけてしまう。


「――結愛、頬にマヨネーズついてるよ」

「げ」

慌てて取ろうとしたら、葵の胸に抱き寄せられた。


「葵っ」