復讐。【更新中】

_で、気づいたらこの部屋に居たのだ。
手錠に繋がれて。

 あの日、私の意識が戻った後激しい暴行を受けた。
息がつまり、意識は朦朧として本当に死ぬ寸前だった。

 澪汰は私の顔面を殴りながら何度も叫んでいた。
「やっとずっと一緒に居られる。もう絶対に離さない。」と。

 違うのに。
別に浮気をしたわけじゃない。ただ仕事の電話をしただけ。
何度もそう訴えたが、全くの無意味だった。

 半狂乱の澪汰はもはや野獣の様だった。
私の血で染まった指を嬉しそうに舐めるその姿は、恐怖の対象でしかない。

 確信したんだ。
ヤツは狂っている。正気じゃない。キチガイ。
もう元には戻れない。
私は踏み入れてはいけない領域に、足を滑らせてしまったんだ。

 私の中は恐怖と諦めで満ち満ちていった。もう無駄だ。無駄。
理解を求める行為は無駄でしかない。やめよう。
そうすれば澪汰は満足する。
私も痛みから解放される。

_私は抵抗することを止めた。そして、澪汰という男を愛するという行為を辞めた。

 そんな過去の事を思い出せば、現実にまたため息をつく。
澪汰はもうすっかり落ち着いたようだ。
夕食を作ると言い、狭い台所へと消えていった。

 一人ぽつんと取り残された私は、あらためて部屋を見回した。
綺麗に整頓された6畳ほどの部屋。家具は白で統一されていて清潔な印象だ。
壁は少し塗装が剥げているが、アパート全体の見た目からは想像も出来ないほど綺麗だ。

 監禁中の私の生活事態は、よく刑事ドラマやミステリー小説などで見る不潔できついものではない。

 食事は三食とも食べられるし、自由にトイレも行かせてくれる。
その点ではたちのいい奴だと思う。

 いや、監禁なんてしてる時点でたちが良いも何もないか。

とんとんとんとん…

 固い根菜かなにかだろうか。台所から野菜を刻む音の一定のリズムがする。
私達の生活の中で、全ての家事を担当するのは澪汰だ。

 私はただここに座っているだけで、家では本当に何もしない。
動くことが出来ないので仕方がないのだが。

 しかし、夜にだけ出勤するために外出することが許されている。
澪汰のバイト代だけでは、二人分の生活費を出すのは難しいのだろう。

 夕方澪汰がバイトから帰宅し夕食をとって、夜私が出勤し朝まで働き、翌朝の昼から澪汰がバイトに行くというのが基本的なサイクルとなっている。

「できた。お腹すいただろ。今運ぶからもうちょっと待って。」

 ふわり。
台所からいい香りが立ち込めている。
バターで炒めた野菜の美味しそうな匂い。
ぎゅるぎゅると鳴るお腹を押さえつけて、テーブルの用意が終わるのを待つ。

 澪汰は淡々と箸やらお皿やらを四角いテーブルに並べていく。
今日のメニューはおろしだれのハンバーグステーキと、簡単なサラダだ。

「澪汰、早く。」

「ああ、ごめん。」

 私が急かすようにねだると、澪汰は部屋を出てどこかへ行ってしまった。
そして数十秒後、小さな鍵を手にして帰ってくる。

 澪汰は私の目の前で膝をつくと、二つの鍵の凹凸の少ない方で私の手錠を外した。
かちゃり。それは小さな音をたてていとも簡単に開いた。

 自由が戻ってきた左手を、閉じたり開いたりしてみる。
たったこれだけの行為がなんて清々しいのだろう。

 微かに左手に残るベッドの金属足が絡まりつく感覚を振り切って自分の席に着いた。