受付には眠たそうな稲瀬君が居た。
私をちらりとだけ見て、すぐに視線をそらした。
なんだか少し気まずい雰囲気。それもしかたないか。
私はわざとらしく気にも止めていない素振りを見せて、ロッカールームへ向かった。
私服に着替えながら四角いロッカーに貼られた予定表に目を通す。
そういえば、最近斎藤さん店来ないなあ。
彼女でも出来たのだろうか。それとも新しくいい店でも見つけたのだろうか。
そんなどうでもいい事を考えながら、雑にロッカーを閉めた。
「あ、結衣ちゃんおつかれー」
「お疲れ様です。」
シフトが被っている先輩と軽い挨拶を交わして、私はビルを出た。
もうすっかり日が昇った〝夜の街〟は、物寂しげな空気を醸し出していた。
ビルに朝日が反射して、コンクリートをぬらぬらと照らす。
ぽつぽつとシャッターが閉まっていく店。煌びやかなネオンもすっかり落ち着いている。
駅の近くのコンビニに立ち寄って、コーヒーを買うのが私の日課。
今日も窮屈そうにビルの間に挟まれたコンビニに向かった。
「「あ、」」
ウィーンと小さな音をたてて開いた扉の向こうで、見知った男と目があった。
「あ、結衣先輩帰りですか?お疲れ様です。」
片手に菓子パンの詰まったビニールを下げた稲瀬君が立っていた。
おいしそう。昨日の夕方から何も食べていない私は、空腹の限界が近づいている。
稲瀬君のビニール袋を見つめていた私のお腹からぎゅるぎゅると音がした。
「あっやだ、お腹なっちゃった。早く帰って食べないと。ごめんね」
私はお腹をぎゅっと押さえ込んでコンビニに入ろうとした。
だが、すれ違いざまに腕を握られて停止してしまう。
「あの、もしよかったら俺の家来ませんか?俺、一人暮らしだからちょっと寂しくて…。菓子パンとカップ麺とかしかないですけど、ここから割と近いんです。」
「でもそんな、悪いし」
「大丈夫です!俺を頼って下さい!最近先輩元気なくて、心配なんです。俺の勝手な妄想かもしれないけど、悩みがあるのになんか隠してるんじゃないかなって。先輩は優しいから、全部一人で抱えこんでいる気がして…。」
ぎゅっと下唇を噛みしめる稲瀬君。
本当に心配してくれてるんだなって、心から伝わってくる。
_ねぇ稲瀬君。あなたは私を連れ出してくれるの?
澪汰から私を連れ去ってくれるの?
苦しみと欲まみれのこの世界から、私を引きずり出してくれるの?
怖い。痛い。逃げたい。辛い。苦しい。
助けて欲しい。誰でもいいから助けて欲しい。
「…余計な御世話だよ。」
「そう、ですよね。ごめんなさい…。」
「でも、今日は稲瀬君の家、行っていいかな?」
「えっ、も、もちろんです!」
大げさに頷いた稲瀬君がにっこりと笑った。
これで全て終えられるというのなら、こんなに素晴らしいことは無い。
さあ早く、私を連れて逃げて。
あいつの居ない世界へ連れて行って、稲瀬君。
私をちらりとだけ見て、すぐに視線をそらした。
なんだか少し気まずい雰囲気。それもしかたないか。
私はわざとらしく気にも止めていない素振りを見せて、ロッカールームへ向かった。
私服に着替えながら四角いロッカーに貼られた予定表に目を通す。
そういえば、最近斎藤さん店来ないなあ。
彼女でも出来たのだろうか。それとも新しくいい店でも見つけたのだろうか。
そんなどうでもいい事を考えながら、雑にロッカーを閉めた。
「あ、結衣ちゃんおつかれー」
「お疲れ様です。」
シフトが被っている先輩と軽い挨拶を交わして、私はビルを出た。
もうすっかり日が昇った〝夜の街〟は、物寂しげな空気を醸し出していた。
ビルに朝日が反射して、コンクリートをぬらぬらと照らす。
ぽつぽつとシャッターが閉まっていく店。煌びやかなネオンもすっかり落ち着いている。
駅の近くのコンビニに立ち寄って、コーヒーを買うのが私の日課。
今日も窮屈そうにビルの間に挟まれたコンビニに向かった。
「「あ、」」
ウィーンと小さな音をたてて開いた扉の向こうで、見知った男と目があった。
「あ、結衣先輩帰りですか?お疲れ様です。」
片手に菓子パンの詰まったビニールを下げた稲瀬君が立っていた。
おいしそう。昨日の夕方から何も食べていない私は、空腹の限界が近づいている。
稲瀬君のビニール袋を見つめていた私のお腹からぎゅるぎゅると音がした。
「あっやだ、お腹なっちゃった。早く帰って食べないと。ごめんね」
私はお腹をぎゅっと押さえ込んでコンビニに入ろうとした。
だが、すれ違いざまに腕を握られて停止してしまう。
「あの、もしよかったら俺の家来ませんか?俺、一人暮らしだからちょっと寂しくて…。菓子パンとカップ麺とかしかないですけど、ここから割と近いんです。」
「でもそんな、悪いし」
「大丈夫です!俺を頼って下さい!最近先輩元気なくて、心配なんです。俺の勝手な妄想かもしれないけど、悩みがあるのになんか隠してるんじゃないかなって。先輩は優しいから、全部一人で抱えこんでいる気がして…。」
ぎゅっと下唇を噛みしめる稲瀬君。
本当に心配してくれてるんだなって、心から伝わってくる。
_ねぇ稲瀬君。あなたは私を連れ出してくれるの?
澪汰から私を連れ去ってくれるの?
苦しみと欲まみれのこの世界から、私を引きずり出してくれるの?
怖い。痛い。逃げたい。辛い。苦しい。
助けて欲しい。誰でもいいから助けて欲しい。
「…余計な御世話だよ。」
「そう、ですよね。ごめんなさい…。」
「でも、今日は稲瀬君の家、行っていいかな?」
「えっ、も、もちろんです!」
大げさに頷いた稲瀬君がにっこりと笑った。
これで全て終えられるというのなら、こんなに素晴らしいことは無い。
さあ早く、私を連れて逃げて。
あいつの居ない世界へ連れて行って、稲瀬君。


