スープがなくなると、自然に散会となった。多くの者は「部屋」に戻り、またあるグループは花札をするために、ちょっと広めの「小屋」に集まる。俺は、腹がいっぱいになって満足しながら、今日はゆっくり眠ろうと、賭けには加わらないことにした。


帰ろうとすると、小城牧師から野中さん、と呼び止められた。


「なんですか」


少々眠気が来て、とろんとした目を向けると、彼は少しためらいながらも、はっきりした声で言った。


「会っていただきたい者がおります。少々、お時間をいただけませんか」


「いいですよ」


俺は何の考えもなく、満腹感に酔いしれながら言った。


小城牧師は、設営テントの方へ行ったが、やがて一人の女性を伴って戻ってきた。


「家内の純子です」


「あ、どうも……」


「主人がお世話になっております」


私たちは会釈を交わした。純子さんは、まだ若いきれいな女性で、どこかおびえているように見えた。手を組んだり、擦り合わせたり、落ち着かない。小城牧師が、沈黙した我々に助け船を出した。


「今日のスープは、純子が作ったんですよ」


「そうですか。大変美味しかったです。ありがとうございました」

俺がまた頭を下げると、純子さんは少しビクッとしながらも、にこっと笑って、どういたしまして、と礼を返してくれた。


「純子、言っていいのかい」


小城牧師が、小声で言うのが気になった。何かあったのだろうか。純子さんは、軽くうなずいた。


「スープは、純子が作りました。あなたのお皿も、純子が選びました。純子は、あなたのスープを注ぎ、少し多めに具を入れたそうです」


「はあ、なんのために、そんな、わざわざ……」


小城牧師は、純子さんをもう一度見た。純子さんは、ぎゅっとこぶしを握りしめてうつむいたが、やがて微笑んで俺を見つめた。


「野中さんのことを知っているから」


「え?」


そう言われても、純子さんの顔は思い出せない。困っている私に、純子さんは優しく言った。


「私、村田陽介の娘です」


そう言われて、俺はくらくらと世界が回って崩れ落ちるように感じた。


この女性は、俺が殺した父親の、子供だった!そして、そうだ、あのお嬢ちゃんが……絶命した父親を腕の中で見つめていたあの女の子が、ここにいたのだ!


俺は、思わず純子さんの足元にひれ伏した。純子さんは、さっと俺を助け起こした。ひざががくがくして、うまく立っていられない俺のために、小城牧師が椅子を持ってきてくれた。座って、深く息をつくと、ようやく事態が飲み込めてきた。


「純子さん、俺は、あなたのお父さんを……」


「分かっています」


純子さんは、俺の肩に手を置いた。そのぬくもりは、昔の妻の手のように懐かしさを感じる、久しく感じたことがなかった、俺を慈しむような感覚だった。


「みなさんは、あの後……」


「家族は離散しました。兄弟は母に引き取られ、私は父方の祖母に引き取られて、そこで育てられました。それが、この教会だったのです。私は、昔は悪夢とあなたを責める気持ちで、夜も眠れないほどでした。……でも」


純子さんは、うなだれる俺にそっと語りかけた。