母方の祖母(守田蛍子《もりたけいこ》)と私は面識はない。何故なら祖母は、私達が生まれる前に47歳の若さで亡くなったからだ。

 初めて逢う祖母に、私は戸惑いを隠せない。

「もしかして……綾さんのお母さんですか?」

「ええ、綾がいつもお世話になってます。さあ、お2人ともこちらへ」

「私達……。招待されてないの。こっそり綾さんに逢いに来たんです。だから……披露宴会場には……」

「まぁ、ご招待してないのに、わざわざお祝いに来て下さったの?折角来て下さったのだから、お時間が許すなら是非参列して下さい。私達家族と同じテーブルでもいいかしら?ちょっと待ってね」

 祖母は、スタッフを呼び私達の席も用意するようにと交渉している。
 突然のことにスタッフは困惑しているが、祖母はそれでも粘り強く交渉を続けている。

「大丈夫かな。お祖父ちゃんも一緒だよね」

 こっそり見るつもりだったのに、母の家族と同席するなんて……。

「どうしよう。もも、お母さんの友達だって嘘ついちゃった」

「紘一さん……俺達のことに気付くかな」

 ――あれから36年……。
 私達はあの時と何も変わっていない。

 でも両親が存在するということは、祖父が戦火の下を生き抜いたことになる。
 祖父は原爆投下の広島から生還したんだ。

 戦時中のことが脳裏に蘇り、胸が押し潰されそうになる。

 スタッフと交渉していた祖母が、私達のもとに戻り右手の親指と人差し指で丸を作り、『オーケー』って笑った。茶目っ気たっぷりで優しい笑顔、初めて逢うのにずっと前から知っていたみたいに親近感がわく。

「蛍子《けいこ》何しとる。披露宴が始まるぞ」

 少し怒った口調の男性。
 しわを刻んだその顔が、若き日の紘一さんの面影と重なる。

「お父さん、綾のお友達ですよ。わざわざお祝いにいらして下さったんよ。家族のテーブルにご一緒してもいいでしょう?」

「綾の友達?」

 祖父は私達を見て目を見開いた。
 明らかに驚愕している。

「君達は……!?」