「もも、ねね、テレビは観たんか?アメリカの大統領が被爆地を訪れるなんて、歴史的なことじゃ。若いからこそ、ちゃんと観とかんといけんぞ。わしも長生きした甲斐があったわい」

 藤堂先生は感慨深そうに話している。
 桃弥は防具をつけながら、ぶっきらぼうに答える。

「戦争なんか俺らには関係ないよ。日本は戦争なんかしねぇから」

「ばかもん。二度と戦争が起きんように若いもんが自覚せんでどうするんじゃ。この国の未来を担っとるのはわしらじゃない、お前らなんぞ」

 藤堂先生が竹刀でポンッと、桃弥のお尻を叩いた。

「そんなん、知らんし」

 桃弥は悪びれている。
 高校生になり道場でも時折反抗的だ。そのくせ、サッカーでクタクタになっていても、どんなに遅くなっても、剣道の練習を休むことは滅多にない。

 藤堂先生に反抗ばかりするくせに、どうして剣道を続けているのか、私には理解不能だ。

「集合ー!」

 桃弥の掛け声で全員が床の上に正座する。
 礼に始まり礼に終わる礼儀を重んじる剣道の作法。四季の変化を体感しつつ、この道場で練習を重ねてきた。

 準備体操のあと、みんなで素振りをし、私達は幼稚園児や小学生に竹刀の持ち方や振り方を指導する。

「もも、久しぶりに勝負しない?」

「いいけど。負けてピーピー泣くなよ。ねねは負けるとすぐに泣くから」

「失礼ね。もう小学生じゃありませんよーだ」

「真剣勝負だ、負けたらコンビニでアイス奢れ」

 ていうか、アイスがご褒美だなんて、桃弥の方が小学生レベルだ。

 藤堂先生に聞かれたら、またお説教だね。