【桃弥side】

「桃弥君、桃弥君!起きて」

「……イテテ」

 体を激しく揺すられ、重い瞼を開く。
 全身に痛みと、激しい疲労を感じる。

 目覚めた俺は、平らな布団の中だった。

「時正、やっと起きたんか?」

 聞き覚えのない声がし、思わず布団に正座した。

 顔を上げると、そこには眼鏡を掛けた優しそうな男性が立っていた。

「紘一、お前生きとったんか!」

 時正が立ち上がり、その男性に抱きついた。

「やめんか、知らん人の前で何しとる。生きとるに決まっとろうが。腹減り過ぎて倒れるなんて情けない。寮長に特別許可をもろうておにぎりを作ったけぇ。このおにぎりを食って昼からまた作業じゃ」

「……おにぎり。僕はええ、紘一が食え。僕はカレーライスやトーストをご馳走になったけぇ腹は減っとらん。紘一が食え」

「カレーライス?トースト?ソレはなんじゃ?夢でも見たんか?時正がいらんのなら、そこのあんたがおにぎりを食えばええ」

 俺はまだ状況が把握出来ない。
 時正の目の前にいる男性が紘一であるならば、俺達がいるこの時代はいつなんだ。

「あなたは……」

「わしは守田紘一じゃ。時正とは日の丸鉄道学校の同期じゃ。時正は広島市出身じゃが、わしらと一緒に学徒動員で広島機関区の鉄道寮で生活しとる。あんたの名前は?あんたも学徒動員でここに来たんか?時正とは友達なんか?」

 俺は時正に視線を向けた。

 彼が守田紘一……?
 もしかして……音々のお祖父さん!?

「俺は峰岸桃弥。時正とは…親戚なんだ。偶然そこで逢ってそれで……」

「2人で作業もせんと裏庭で昼寝しとったんか?声を掛けても起きやせん。部屋まで運ぶのは大変じゃったんで」

「……すみません。俺達は寮の裏庭に倒れていたのですか?」

「そうじゃ」

「今日は何月何日ですか!?」

「今日は8月2日じゃ。変な奴じゃのう」

「8月2日?何年ですか?」

「1945年じゃ。まだ寝ぼけとるんか?」

 俺達が1945年にタイムスリップ!?

 そんなバカな……。