「お祖父ちゃんが時正君の親友……」

「戦争が激しくなり僕らも広島に学徒動員された。広島の鉄道寮で共同生活しながら、広島機関区で見習いとして職員と同じような仕事に携わったんじゃ。僕は紘一と同じ部屋じゃった。空爆に怯える臆病な僕を紘一はいつも励ましてくれた」

「お祖父ちゃんが……時正君を……」

「紘一は僕にようしてくれた。泳げん僕に泳ぎを教えてくれたんも紘一じゃ。8月6日の朝、7時半過ぎに空襲警報が解除され、防空壕から出て僕は外で仲間と作業しとった。紘一は徹夜交代で寮の部屋におった。8時過ぎ米軍機の爆音がし、空を見上げたらピカーと空が光ったんじゃ。その光は今まで見たこともないような強烈な光じゃった。そのあと、紘一や仲間がどうなったのか僕にはわからん」

「原爆が落とされた時、お祖父ちゃんは寮にいたの?」

「そうじゃ。紘一のことがずっと心配じゃった。けど紘一はあの戦争を生き延びたんじゃな。終戦後に結婚して孫までおったんじゃな。紘一は……幸せな生涯だったんじゃな……。音々ちゃん、紘一の墓参りをさせてくれませんか。紘一にもう一度逢いたいんじゃ……」

 時正は声を震わせ泣いた。
 とても嘘をついているとは思えなかった。

「もも、私…タイムスリップ信じるよ」

「うん、俺も信じるよ。どうすれば時正を元の時代に戻せるんだろう」

「それは……わかんないよ。もも、時正君、平和公園に行ってみない?慰霊碑や原爆ドームを見たら、何かヒントが浮かぶかも知れない」

「そうだな」

 紘一さんの墓参りをしたいという時正の願いを叶えるために、俺達は3人で県内にある墓苑に行く。時正は守田家のお墓の前で、「紘一、よう頑張ったな」と、何度も呟き泣き崩れた。

 時正は嘘なんてついていない。
 墓の前で号泣する時正に、俺も音々もそう信じた。

 お墓参りのあと、俺達は広島市中区にある平和記念公園に向かった。広島の中心地に向かうにつれ、路面電車の窓から見える高層ビルや繁華街に時正は目を見開いた。

 時正は俺より身長は若干低いが靴のサイズは同じだったため、黒い鼻緒の下駄ではなく俺のスニーカーを履いている。

 ――俺と音々は平和記念公園や広島平和記念資料館(原爆資料館)は小学校の社会見学(平和学習)で訪れたことがある。当時初めて目にした広島平和記念資料館で、再現被爆人形を見た音々は怖くて動けなくなった。

『ねね、俺が手を繋いでやる』

 広島平和記念資料館に展示されている被爆資料や、被爆写真、数々の遺品は俺にもショッキングだったけど、勇気を出して震えていた音々の手を握る。

 父に『戦争や原爆の悲惨さから目を逸らさず、現実に起きたことをちゃんと見てこい』と、言われたからだ。