風がさらった恋心。





顔を上げ、ゆっくりと振り向くと、声以上に優しい顔をした一岡くんがいた。

目が合うと口をぎゅっと結んで、少し照れ臭そうな顔をして頬杖をつく。


その表情を見て、ダメだと思った。

声を発することも出来なくて、視線を逸らすことも出来なくて、手のひらを力一杯、握りしめる。




「……千葉さん?」




何も言わない私に、そのまま不思議そうに首を傾げる一岡くん。


ざわざわと騒ぎ立てる胸が煩くて、苦しい。

手のひらに爪が食い込んで痛い。


ねえ、一岡くん。

君はやっぱりとても不思議な人だ。



あるはずの君と私の世界の境界線を見えなくさせて、私にも飛び越えられるんじゃないかって思わせる。

そっち側に、もう一度踏み込んでみたくなる。





「……え?本当に、どうしたん?」




……君に、近付いてみたくなる。

一岡くんのことを、知りたくなる。



違う。そんなわけない。

必死で自分に心の中で言い聞かせて、芽生えようとする何かに蓋をしようとする。




ーーだって、これじゃまるで、恋に落ちたみたいじゃない。