すきの、チカラ


うん、うんって。うなずきながら、不安はどんどん、ふくらんでいく。


遠野さんの声が、勝手に、耳の奥でこだまする。



『良かったぁ~。悠斗、絶対あのバンド、気にいると思ったんだぁ』



呼びすての名前。ぜんぜん、知らない情報。


心が、ざわざわする。


ざわざわを通り越して、ザクザク、切られているみたいに、つらい。



・・・ねえ、葉山くん。



わたし、ほかのことも知りたいよ。


好きなバンドの話とかも、聞きたいよ。


最近のことじゃなくてもいいよ。子どものころの、話でもいいよ。


昨日見た、ありえない夢の話とかでも、いいよ。


たとえば、ないかもしれないけど、葉山くんの失敗話とか、そういう、かっこよくないことでも知りたいよ。



わがままかなぁ。


・・・ほかの子より、もっと、葉山くんのことが知りたいんだよ。



鼻の奥が、どんどん痛くなる。


泣くな、泣くな。

考えるな、わたし。


なにも考えないでおこうと思っても、頭の中で勝手に、わるい予想ばかりが、浮かんできてしまう。