すきの、チカラ



うつむいて立っていると、男子の部室から、男バスの集団が、わらわらと出てきた。


にぎやかな中から抜けて、葉山くんが、こっちに歩いてくる。



「望月!!」



名前を、呼ばれる。

毎回のごとく、息ができない。


いつものドキドキのせいと、それから今日は、胸が、すごく、くるしくて。



「おつかれ。・・・行こ」



男バス集団に、ちょっとひやかされながら、ふたりで、歩き出す。


足が長い葉山くん。でも、いつもちゃんと、わたしの歩幅にあわせてくれる。


そのことに気づいたとき、感動したの。


でも今は、葉山くんの優しさが、つらいよ。



「あ、俺さ。今朝、顧問に・・・」



葉山くんが、わたしの好きな低い声で、話をする。


相づちはうつけれど、今のわたしには余裕がなくて、頭がいっぱいいっぱいで、うまく、言葉が入ってこない。



「カギ借りて、朝練とか・・・」



・・・やっぱり、わたしといるときは、バスケの話ばっかりだな。


そう思ったら、冬でもないのに、鼻の奥が、ツンとしてしまった。