フキゲン・ハートビート



とりあえず顔を洗って、歯みがきだけした。

よれよれのジャージではさすがにマズイかと思い、着替えもした。


結果、さらに5分ほど待たせることになってしまった。


「すっぴんでごめん」


わざわざ車から降りて待ってくれていた寛人くんのもとへ、慌てて駆け寄る。

でもなにを言ったらいいのかわからず、とっさに口をついたのはそんな言葉。


寛人くんはきょうも黒縁めがね、全身ブラックのまっくろくろすけだ。

きのうデカイ大和を見たからか、いつもよりサイズ感がこぢんまりして見える。


「べつに誰もおまえの顔とか見ねーよ」

「はい、絶対それ言うと思った」


相変わらずだな。

ほんと、むかつくところはシッカリむかつくというか。


でも、


「元気そうでよかった」


本心だった。


やっぱり、最後に見たのがあのゼェゼェしているところだったから。

すっかりフツウにスゴイむかつく寛人くんに戻ってくれていて、安心しているのは、たしかでありまして。


でも彼は、驚いた顔であたしをまじまじと見つめると、


「……怒ってんのかと、思ってた」


そう、小さな声で言った。