しばらく歩くと、冷たい風が体を包んだ。
磯の独特の香りがして、波の音が聞こえてきた。
「つ、着いたぁ……」
歩き始めて、どれくらいかは知らないが、ようやく海に到着。
薄明るい空。
濃いブルー色の海は妙に今の空の色とマッチしていた。
「一宮さん、もうヘトヘトですよ……」
「こんな事で疲れたのか?情けないな」
「そういう一宮さんは体力ありますね」
「まぁな。少なくとも奈柚よりはな」
私は「もう」と言って、大袈裟に頬を膨らませていた。
そしたら彼は噴出したように笑った。
彼は私の家族を殺めた人。
だけどちっとも憎くない。
依頼を出したのは私だし、それに私は……。
「少し海岸を歩くか」
「はい」
私は、彼の事が……。