「咲良ー!」

ばあちゃんに呼ばれた。

夕飯の手伝いかな?

………めんどくさ。

そんなことを思いながらも、素直に手伝う私。

でも家族ってそんなもんだ。

この家で暮らし始めて5年。

ここに来て、私の人生は大きく変わったような気がする。


5年前、私は東京に住んでいた。

俳優の優しいお父さんとピアニストでしっかり者のお母さんと一緒に。

いつも仕事で忙しいのに、毎週日曜日は必ず私と遊んでくれていたお父さん。

私はお父さんが大好きだったんだ。

中学2年生になってすぐ、私は東京を離れなくてはならない状況になった。

……大好きだったお父さんに裏切られたから。


お母さんは私を連れて、お母さんの実家があるこの街にやって来た。

初めてこの家に来た時、お母さんはばあちゃんと凄い喧嘩をしていたのを覚えている。

何を話していたのか分からないけど、お母さんは泣いていた。

今も鮮明に思い出すことが出来るお母さんの涙。

お母さんの涙を見たのは、1度だけだったな……。

それからすぐに、お母さんは事故にあった。


………お母さんが事故にあう直前、
“行ってらっしゃい”って玄関で見送った。


あの時私が止めていれば、

“行ってらっしゃい”なんて言わなければ、

お母さんは死ななかったかもしれないのに………。


私はお母さんを事故にあわせてしまった。

私がお母さんを…………。




「……くら、咲良!」

ばあちゃんが凄い怖い顔をしている。

「あんたご飯食べながら、何ぼーっとしてんの。」

「…あぁ、ごめん。」

「………熱でもあんのかね?」

ばあちゃんは私の額に手を当てる。

「熱なんてないよ、…いただきます。」

ばあちゃんに心配をかけるわけにはいかない。

私は一瞬で笑顔を繕う。


ばあちゃんは安心したように微笑んだ。