あれから、5年。

まさか、自分の身にも起こるだなんて、思ってもみなかった。

――――『運命の赤い糸』があるだなんて。



「あっ、そうだ、お母さん」

「ん?……何?」

「どこにあるの?…………指輪」



すっかり指輪の痕が残っている手をほんの少し傾けて尋ねると、

母親はハンドバッグの中から、刺繍が施されたハンカチを取り出した。


「手術の後に看護師さんから預かったの。……高価なものだしね」

「……ありがと」


私の手に戻って来た指輪。

貴金属独特の冷たい感触と、私の指には不釣り合いの重量感。

そして、病院にはそぐわない輝きを放っている。


「退院するまで、預かってて」

「………ん」

「それと………」

「………ん?」


私はゆっくりと視線をサイドレールに向けた。


「これも、…………ありがと」

「…………どう致しまして」


苦笑する母親。

私の視線の先には、サイドレールに掛けられたバスタオルが……。

意識のない私には、尿道カテーテルが施されている。

サイドレールに固定する形で、女性に限らず男性でも嫌だと思う。

身内ならまだしも、友人や見舞客に一番見られたくない姿。

それが恋人なら、なおさらだ。


そんな私を気遣って、母親が施してくれた優しさ。

必要な処置なのだから仕方ないけれど、

それでも、隠せるのであれば隠したい………そんな姿。

改めて思い知る、母親の優しさが。


体はまだ怠くて重いけれど、意識はハッキリとして来て、

会話も問題なく出来るようになった頃。

白衣を身に纏った担当医が姿を現した。