ワクワクするような爽やかな香りと共に、

一声聞いただけで胸が高鳴ってしまう、あの人の声が耳に届く。


近くにいると分かっただけで、体が勝手に反応を示す。

だけど、ベッドに全身が張り付けられているみたいに重く、動かない。

渾身の力を込めて重い瞼を押し上げ、

微睡む視界の中からあの人を探す。

すると、指先にひんやりとした感覚を覚えた。


ゆっくりとなぞられるそこは、私とあの人を繋ぐ証があるはずだけど。

でも、すぐに分かってしまった。

大事な大事なそれが、そこには無いということを。


彼もそのことに気を留めているようだ。

だって、恋しそうにそこを何度も何度もなぞるから。



鈍い痛みを伴う腹部。

鉄の棒のように硬く、重い脚。

そして、鈍器で殴られたかのような激痛がする頭。


意識を集中させないと、再び深い眠りに落ちてしまいそうな感覚。

薬の副作用なのかもしれないが、

痛みを感じるという事が、この上なく嬉しくて堪らなかった。


だって、それは…………私が『生きている』という証だから。



今日が何日なのか。

あの日から、何日経っているのかすら分からない。

だけど、ここがロサンゼルスでなく、日本だということは理解出来た。


だって、院内放送が日本語だから。


結婚式を駄目にしてしまったことも。

彼や両親に心配させてしまったことも。


後悔している訳じゃない。

あの時に戻ったとしても、きっと同じことをしたと思う。


彼を守れるなら、これくらいの痛み、幾らだって我慢できる。

ただ………。