「もう、ずいぶん夜は更けたよ。


家のひとが、心配するんじゃない?」






「あ………っ!!」







あたしは急に、ちょっとだけ家を出てくるつもりだったことを思い出した。




おじいちゃんにも、すぐ近くに買い物に行くことしか伝えてない………







「そうだった、急いで帰らなきゃ!」






「うん。そうしたほうがいい。


………気をつけてね。

森を出るまで、振り返っちゃだめだよ―――」







あたしはよく分からないままに頷いた。




そして、弓月くんに言われた通り、振り向かずに、森の中の細い道を駆け戻った。






鳥居をくぐったところで、橋の前に立ち、あたしは一度だけ振り返る。







―――蠢く闇の塊のような、真っ黒な鎮守の森。




その中で、たった一人たたずむ、不思議な白い少年の姿が、目に浮かぶようだった。