潰れたリップクリーム。




「…受験なんかに負けちゃって、本当あたしカッコ悪いよね」


長谷部の胸から顔を上げてゆっくり長谷部から離れて立ち上がると、教卓の下に落ちていたリップクリームを拾った。


「受験が終わるまで距離を置くこともできたはずなのにね」



その選択がなかった時点であたしの負けだ。

あの頃から先輩はもうあたしに気持ちはなかったんだ。


「好きで好きで仕方なかったのにな」



長谷部に笑みを向けた。


「長谷部、帰ろ」


「…あぁ」


長谷部との帰り道は一言も会話しなかった。








家に帰って机の下の引き出しを開けると、ピンクの箱を取り出した。


中を開けると1年でできたたくさんの思い出の数々。



手紙、運動会のハチマキ、
誕生日やクリスマスやホワイトデーのプレゼント、
たくさんの写真、


どれも巧先輩との思い出がある品々。



一つ一つ見てその時の思い出を思い出す。



そして、最後にリップクリームをまた開けた。



グチャグチャでホコリやゴミがついたリップクリーム。




「あたしの気持ちみたい…」




新しい彼女ができた巧先輩。


そして新しい彼女。



憎しみや嫉妬が入り混じったあたしの汚い気持ち。


こんな汚い気持ち誰にも見せられない。




「捨てよう」



この思い出とともに。



ゴミ袋には先程見ていたピンクの箱の中に入っていた思い出の物たち。



そのゴミの中にリップクリームを最後に落とした。



「バイバイ」


巧先輩はもうあたしをもう見てはくれないんだから、


あたしも前に進まなきゃ。




ブレザーのポケットから新しいリップクリームを出すと、唇に塗った。




鏡を見ると、涙でボヤけて見えなかった。



-end-