その時には、夜を選びました。昔、あの時は昼間だったので、できるだけ違う時間帯を選びたかったのです。そして、「妻になってください」と言うのではなく、ただ指輪を渡すだけにしました。

ローベルトは、小遣いを貯めて買った、ささやかな金色の指輪が入った小箱をポケットに入れて、待ち合わせの村外れにあるベンチに向かいました。


アンジェリカは、いつものように、長い髪に赤いリボンを結んだ姿で、ベンチに座っていました。ローベルトは、高鳴る心臓を抑えながら、彼女の横に座りました。


あまり長いこと彼が黙っているので、ついに彼女が聞きました。


「ローベルトさん、御用は何?」


ローベルトは、決心しました。震える手で、ポケットから小箱を取り出して、アンジェリカの小さな手を取ってそっと渡しました。彼女は包みを開いていましたが、やがて小さく声を上げました。


「ローベルトさん、この指輪は……」


「そう、そういうことだよ。僕は……僕は、君が……」


「だめ」


アンジェリカがゆっくりと言いました。悲しげに、でも幸せそうに。


「アンジェリカ、君は僕が嫌い?」


「いいえ。好きよ。ずっと、あなたが生まれる前から、好きだったのよ」


彼女の謎めいた言葉に、青年は思わず聞き返しました。


「生まれる前から、だって?」


「そう。私は、実は天使なの。あなたの守護天使よ。そして、あの時、あなたがプロポーズに失敗したのは、私のせいなの。天使は人間の言葉を運ぶのが仕事だけど、私が、あなたの『妻になってください』という言葉を、間違えて『嫌いです』と伝えてしまったの。それで、あなたは失恋して、職も失った……私は、守護天使の責任を取るために、あなたに出会って、相思相愛になって、『嫌いだ』と言ってもらわないと、天使の姿に戻れないの。あなた、言ってくださる?」


ああ、なんということでしょう。青年は、本当に愛した少女に向かって、愛の言葉の代わりに、「嫌いだ」という真逆の言葉をかけなければならないのです。そうしなければ、アンジェリカは元の姿に戻れないのです。


「そんなこと、言えないよ……」


「そう、そうよね。では、私たちはこのまま愛の言葉を言わずに過ごしていきましょう。それでも愛していることに代わりはないわ」


アンジェリカはうつむいて言いました。青年はしばらく黙っていましたが、やがて少女の手を取りました。そして、金の指輪を彼女の薬指にそっとはめました。青年の黒い目からは、雪解け水のような涙が、一筋流れていました。


「アンジェリカ。『嫌いだ』」


その瞬間、アンジェリカの背中から、真っ白い翼が現れました。そして、彼女は光に包まれ、輝かしい美貌を誇らしげに青年に向けると、穏やかに言いました。


「ついてきてくださる?」


「君の行くところなら、どこまでも」


天使の姿になったアンジェリカは、青年の背中を撫でました。そこから、小さめの白い翼が生えました。二人は手を取り合って見つめあい、やがて微笑みました……。