ローベルトとお針子は、少しずつ仲良くなりました。お針子の名前はアンジェリカと言いました。アンジェリカは、容姿はあまり美しくありませんでしたが、長い栗色の髪に赤いリボンがよく似合い、その裁縫の腕は一流でした。


「アンジェリカ、どうして君は、こんな将来を失った僕に優しくしてくれるの」


ローベルトは、いつものように店番をしているときに、リボンを選んでいるアンジェリカに、おずおずと尋ねました。ピンクのリボンを手にしたアンジェリカは、微笑みました。


「あなたが、とても優しい方だって知っていますから。優しい方には、優しく、ね」


「アンジェリカ、君の方がずっと優しいよ。僕にはね、昔、恋人がいたんだ。でも、プロポーズに失敗してね……彼女に間違えて『嫌いだ』って言ってしまったんだよ。ね、優しくなんかないんだよ」


ローベルトはしんみりと打ち明けましたが、アンジェリカがあまりに辛そうな顔をしたので、あわてて話題を変えました。


ローベルトとアンジェリカは、ますます仲良くなっていきました。青年は、たくさんの本を読んでいましたから、彼女に物語を聞かせてあげました。時には自分で書いた詩も。そんなとき、彼女は目を閉じて、うっとりと彼の優しい声に聞き入っていました。アンジェリカの方は、自分が縫ったハンカチをプレゼントしてくれました。縫い目の丁寧なそのハンカチを、ローベルトは大切に机の引き出しに仕舞いました。


そうするうちに、彼は、元の恋人よりも、ずっとずっとアンジェリカを好きになっていることに気づいたのです。それは、最初はつぼみのようで、やがて想いは膨らみ、彼の胸の中で焦がれる想いは美しい大輪の花を咲かせたのでした。


ローベルトは、彼女を妻にしたいと思いました。しかし、元の恋人にプロポーズした時の失言が、彼の心の傷になっていました。


また、失敗したらどうしよう。僕は、アンジェリカまで失いたくない。でも、彼女を人生の伴侶にしたい……。


青年は悩みました。そして、できるだけ間接的な言葉で思いを伝えようとしましたが、うまくいきません。アンジェリカは、うまくはぐらかしてしまうのでした。ここまで来ると、青年の想いは募り、もうどうしても自分の恋を告白せねばいられなくなりました。