銀行を辞めてから、ローベルトが選んだ仕事は、故郷の小さな村に住む両親が、細々と営んでいる小間物屋の店番でした。この仕事なら、もらえるのは小遣いくらいでも、食費と家賃は考えずに済み、暇な時間には椅子に座って好きな本を読むことだってできたからです。


小間物屋には、客として少女たちが多くやってきました。そして、様々なかわいらしいハンカチやリボンを買っていきましたが、失恋したばかりのローベルトは、彼女たちには全く関心を寄せずに、ただ機械的にお金を受け取ってお釣りを渡すと、また本の世界に没頭するのでした。少女たちも、最初こそ青年に興味を持っていましたが、青年のすげない態度に、少しずつ客足は遠退きました。


「ローベルトさん、おやつはいかが?」


青年の無関心さにも負けず、毎日お菓子を焼いて持ってきてくれり少女が一人だけおりました。彼女は、最近村に引っ越してきたお針子でした。


青年は、彼女の根気に負けて、ついにお菓子を受け取りました。読書の合間につまむと、それは、甘さは控えめながら、ふんわりと豊かなチョコレートの味が広がるブラウニーで、青年は思わず微笑みました。もう、ずっと笑うことを忘れていたローベルトの目に、光が宿りました。