「出れるとも!恐らく今の衝撃で、結界が緩んでいる!」



老人の声が響いた。


それと同時に、淳は走り出していた。



そして、ふと気付く。




―俺のこと、話し相手、なんて言ってたけど。



やっぱりあのじーさん、俺を助けたんだな。


淳は一度だけ後ろを振り返って、再度門を目指した。




煙の中で、少年の影だけが黒く映る。



それを見ながら、老人はにこりと笑っていた。




「ずっと前にも、あんな格好をした旅人が、翠によくしてくれたぁなぁ。あれも突然居なくなったが―。これは偶然かの?」




そうして、ゆっくりとその場に座り込み、目を閉じる。




上では、王族達が闘っている。



温度師と闘っている。




どちらも、自国の者なのに―


老人の胸は痛む。



片方は温度師のため。


片方は世界のため。




戦火は少しずつ、しかし着実に、城を食い尽くしていた。