チョコバー


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 マフラーから出る音が、胸に響く。うるさくはない。逆に、心地良いくらい。

 全身に力が入ったまま、バイクで右に左に曲がり、振り落とされないように青司の背中を力一杯抱き締めながら乗っていた。来た時と同じように。

 この風に、全部流してしまいたかった。余計なもの全部。
 嫌いになったとか、嫌になったとか、そういうことじゃないんだよ。終わったんだよ、源也。あたし達、もう戻れないんだよ。

 慣れない姿勢とスピード感に、気が遠くなりそうになりながら、青司のアパートに帰って来た。

 途中寄ったコンビニで買い込んだビール数本は、あたしのリュックに入ってる。

「華ちゃんのアパートに送れば良かったかな」

「ううん。お蕎麦、食べようよ」

 こんな気持ちのまま、ひとりで部屋に居るのはちょっときつかったかもしれない。青司が居てくれて、本当に良かった。

 冷蔵庫に入っていたお蕎麦を水で洗い、ざるそばにして食べることにした。薬味がワサビしか無かったけれど、まぁ良いよね。

 お蕎麦でビール。夏っぽくて良いよね、なんて言いながら。こんな風に笑い合いながらの食事、とても癒される。

 お腹が満たされ、アルコールも程良く回った。

「引越祝いしなくちゃ。華ちゃんの」

 最近「華さん」て言わないの。「華ちゃん」なの。自分で意識していないのかもしれないけれど、あたしは知ってる。
 呼び方が、変わったことぐらい。そういうところ、敏感なんだから。

「もうお蕎麦は飽きたよー。うどんが良い」

「そういうこと?」

「じゃあどういうことよ」

 お椀を重ねて片付けた。食器洗うのは明日でも良いかなぁ……。今日はさすがに疲れちゃった。精神的に。

「なにか欲しいもの無いの?」

 すぐに返事ができなくて困った。そう聞かれると……欲しいもの。家電だったら色々欲しいけど、それは浪人バンドマンに買って貰うわけにはいかない。お金に余裕があるわけじゃないんだろうし。

「いいよ……お金使わなくても。自転車も貰ったし」

 全然乗ってなかったから、タイヤも綺麗だった。