ハイカロリーラヴァーズ

 源也は、玄関には行かないで頭を掻いている。どうするつもりなの。なにこの修羅場。あ、あたしはもう別れてるし、関係無いんだけれど。なんとなく、居心地悪い。

「あたし、もう帰るね。お客さん来たみたいだし」

「華、ちょっと」

 あたしは玄関へ向かった。

「お前、なにで来たんだ。帰り、送ろうか」

「大丈夫だよ。バイ……電車で帰るから」

 青司を待たせてある。このまま外まで見送りされても面倒だ。それよりも、源也。なんだか挙動不審っていうか、様子がおかしいから、これはもうビンゴでしょ。「サヤカ」なのかは分からないけれど、なにか関係のある女だ。……まさか、何人か居るわけ?

「華」

「お客さん、待たせてるし」

「待て」

 源也に手をつかまれた。なにもしないと言っていたけれど、反射的に体が固くなる。

「大切なもの無くしたかもって気付いて、俺……」

 手を離して欲しかった。それ以上、言わないで欲しかった。

「……もう遅いよ、源也」

「華…」

 源也が、なんだか見たことの無い顔をしてあたしを見ている。

「顔色見て生活するの、もう疲れたんだ」

 いま頃、そんなこと言わないで。ごめん、源也。もうあたしは戻らないよ。
 大きな手をそっと外して、玄関ドアに手をかけた。

「元気でね。おじゃましまし……」

「源也さん~!」

 あたしが玄関を開けたと同時に、茶髪で化粧の濃い女が顔を突っ込んできた。

「な……」

 あたしを見て、珍獣でも見つけたかのような顔になっている。元彼のところに忘れ物を取りに来たタイミングで他の女が訪ねてくる。なんてタイミングなのだろうか。クローゼットにでも隠れていれば良かった。少なくとも顔を合わせることは無かったかもしれない。

「こ、こんばんわ。あたし、忘れ物を取りに来ただけなんで。帰りますね」

 厚化粧の「佐伯さん」に小さく手を振って、玄関を出ようとした。「源也さん」だって。なにそれ気持ち悪い。

「おい」

「じゃあね、源也。こんな時間に来てごめんね」

 元カノ面しても仕方がない。別れたんだから。でも、この厚化粧女はムカつく。あんたなんか、源也に似合わない。似合わないけれど、源也もムカつく。

「会社の方なんですね。こんな時間に家に来るんだね」

「いや、これは」

「彼女さんですかー?」

 お前は混ざってくんな。この厚化粧女。なにその「カノジョサン」って言い方、気持ち悪い。