ハイカロリーラヴァーズ

 いまはそんなことを言ってる場合じゃない。早く通帳と印鑑を持って、ここを出なければ。

「多分、クローゼットの中だと思うから……」

「ああ」

「ごめんね、すぐ終わらせるから」

 余計なところに寄らず、真っ直ぐ寝室のクローゼットへ行く。たしかここだ。なんでこんなところに置いたんだろう。そして、なんで運び出す時に気付かなかったんだろう。

「あった」

 赤いポーチを見つけた。これだ。この中に入ってる。ファスナーを開けてみると、通帳と印鑑。あった、ありました。

「見つけたのか」

「うん、ごめんね。お騒がせしました」

 寝室から出て、玄関へ向かおうとする。少し見回した部屋は、あたしが出てきた時となにも変わっていない様だった。掃除機の場所、分かるかな。収納そんなに大きくないから見つけられるとは思うけれど。

「……お茶でも飲んで行ったら」

 ソファーから源也が立ち上がって、そう言う。こっちへ来る。あたしは、この間のこともって、またなにかされるんじゃないかと警戒した。体が反応してしまって、思わず肩をすくめる。

「……なにもしないよ。誓って」

 ため息混じりの源也の声。

「悪かった」

「……」

 源也が謝罪の言葉を口にしている。ここで、責め立てるようなことはしたくない。そんな気も無かった。早く用事を済ませて、帰りたいだけだった。

「華、あのな」

 ピンポーン。源也がなにか言いかけた時、インターホンが鳴った。舌打ちをしながら、源也がドアフォンに向かう。誰だろう。まさか、青司ではないよね?

「はい」

「こんばんわ、佐伯ですけど~」

 間延びした女の声が聞こえる。

「なんだ? なんで」

「明日の資料、朝早くに必要だし、渡してくれって部長に言われたんで、帰りに寄りました~」

 源也の会社の人か。なんでこんな時間に渡しに来るんだろう。しかも、家を知ってるって……。
 もしかして、これが「サヤカ」……?