ハイカロリーラヴァーズ

 通路の影に隠れる青司を確認してから、強ばる手でインターホンを押す。ピンポーン。

「……」

 反応が無い。留守だろうか。出直した方が良いのかな。連絡してから来た方が良かったかな。でも、電話をするのが嫌だった。

 意気込んで来たのに、ここで尻込みしてどうする。通帳と印鑑を取りに来ただけなんだから。取って、すぐに出てくれば良いんだ。

 もう一度、インターホンを押す。すると、鳴り止むか止まないかのうちにドアフォンから「はい」と声が聞こえた。

「あ……」

 源也だ。居たんだ。

「あの……こんばんわ、華です」

「……おお」

 なにしに来た、そう思っているだろう。不機嫌になってるはずだ。あんな風に出て来たから。

「あ、あのね、忘れ物してっ、大事なもので」

「ちょっと待って」

 プッと切れた。開けてくれるんだろうか。少し待っていると、鍵が開く音。そして、ドアが開いた。ワイシャツ姿の源也が顔を出した。まだスーツだ。帰って来たばかりなのだろう。

「ご、ごめん。こんな時間に……」

「良いよ。忘れ物なんだろ」

「うん。通帳と印鑑忘れて……」

「入ったら」

 ドアを開けたまま、通路を開けてくれた。

「あ……りがと」

 いつになく優しく接してくれている気がする。……気がするだけかもしれないけど。

「おじゃまします」

 ついこの間まで住んでいた部屋なのに、おじゃましますだなんて。おかしいね。
 ソファーには鞄が置かれて、缶ビールもまだ開いていない。冷蔵庫から出したてという感じだ。

 途中見えていたシンクには、グラスが置いてあるだけ。料理をした形跡は無い。元からあまりそういうことをする人ではなかった。

「……ご飯、食べた?」

「ああ。カップ麺とかあるし」

「洗濯物……大丈夫?」

「ランドリーあるし」

 あたし、なにを聞いているんだ。同情? 自分のポジション確認? 源也にとってありがた迷惑だよ、そんなの。緊張に耐えかねて、無駄に色々聞いてしまいそうだったから、ぎゅっと口を噤んだ。