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おつゆの良い匂いが充満する店内。込み合ってる。今日みたいに暑い日は、ざるそばに限る。さっぱりしたそうめんも良いよね。
いつものお蕎麦屋さん。お昼の、いつもの光景。
「華ちゃんち、今夜のおかずはなに?」
ちょうど、夕飯のメニューを考えている時に、リエちゃんがそう言った。ふたりで、ランチをしているところ。とは言っても、また今日もお蕎麦屋さんだけど。
「んーいま考えていたんだけど。冷蔵庫、なにも無いんだよねぇ」
「好きなのばっかり食べる派、少しずつ色々食べたい派、どっち? 華ちゃんの彼氏」
華ちゃんの彼氏、そう言われてドキリとした。そっ……か。あたしは源也と別れたんだ。そうなんだよ。
青司の家に居て、1週間は経つ。頬の腫れも引き、切れた唇も治ってきたから、マスクを取っても目立たない。
「んーとね、あたし……」
「華ちゃん料理上手で良いよね。炊き込みご飯美味しかったし」
「別れたの」
「炊き込み……え」
想定外の答えを聞かされると、瞬時に反応できないよね。リエちゃんの顔を見てそう思った。
「別れたんだ。先週」
言わなくても、良かったんだけど。なんていうか、あたしと源也のこと、この職場でリエちゃんしか知らないし。
「ええ!」
お蕎麦の汁が飛ぶんじゃないかと思うぐらい、彼女は驚いていた。お店のおばちゃんもびっくりしてこっちを見ていた。こらこら、恥ずかしいなぁ。
「そんなにびっくりしなくても」
「す、するよ。結婚するんだと思ってた。彼と」
どうやら彼女の中で、あたしと源也は結婚する予定になっていたらしい。
「花嫁姿、絶対に綺麗だし、あたし披露宴で大泣きする準備してた」
そこまで……。なんて妄想逞しい女性なんだ。あたしは思わず吹き出す。



