ハイカロリーラヴァーズ


 自分の湯飲みやマグ、お気に入りのお皿なんかも、全部置いてきてしまった。でも、そんなものどうでも良い。あたしは源也のもとには帰らない。もう、揺れない。

「引っ越し先が決まったら、大きな荷物は取りに行くよ。平日の昼間なら、仕事に行ってると思うから……」

「俺も行く」

「だからぁ、大丈夫だってば。子供か」

 そんな言い合いをしていると、青司が「あ、風呂!」と急いで立って行く。本当に忙しい人だな。こんなんだったっけ? 動揺してて落ち着きが無くなってる。

 またバタバタと戻ってきて、お湯が溜まったことを知らせてくれた。もう、座っていなよ……。

「風呂、もう良いよ」

「ありがとう」

 ココアは半分残し、バスルームへ行った。

 服を脱ぎ、髪をクリップで留める。洗面台の鏡を見ると、唇が切れて血が滲み、頬を微かに腫らした女が写っている。こんな顔だったら、殴られたとしか思わないだろう。仕事には、マスク着用で行くしか無い。

 泣いた覚えも無いのに、アイラインがよれて、瞼の回りが汚れている。

 そういえば、メイク落としも化粧水も持ってこなかったな……あとでコンビニに買いに行こう。ため息をつきながら、バスルームの戸を開けた。入浴剤を入れてくれたのか、良い香りが漂っている。

 シャワーを肌に当てると、どこが傷ついていたのかが分かった。触ると痛い。赤くなっているところもある。切れた唇、殴られた頬。腰のあたり、打ち付けた膝。無理矢理の行為だったせいか、足の間もヒリヒリと痛んだ。