「……華……」
弱い声で、名前を呼ばれた。
「行くのか」
「……」
あたしの、好きな人。愛していた人。一緒に過ごして、暖かい部屋でご飯を食べて、楽しいことに笑いあった人。こんな風に、終わりが来るなんて、あの時は想像していなかった。
「あたし、大好きだったよ、源也」
それは、嘘じゃない。大好きだった。とても。秘密の夜を重ねてしまう、狂ったあたしになるほどに。
「今まで、ありがとう」
壊れて、狂った愛になるほどに。
「バイバイ、源也」
綺麗で、美しくて、愛おしかった。でも、終わった。もう、源也の腕には帰らない。
バッグを引きずって、玄関へ向かう。
悲しくても、涙は出ない。ここで暮らすことももう無い。ゆっくりと、玄関ドアを閉めた。ガシャンという音が、嫌に高く耳に響いた。



