ハイカロリーラヴァーズ


「なにこれ」

 人減らない! むしろ増えてるよ! 入口付近に居たはずなのに、後ろから押され弾かれ、真ん中しょり少し後ろあたりまで来てしまった。しもて側の壁にまで無理やり進んで、自分の場所を確保した。肩がぶち当たった女の子に睨まれる。

「ご、ごめんなさい」

 受けるのは殺気。

 7cmのヒールはちょっと失敗だった。人の足を踏んでしまいそう。ああもう、こんなにギュウギュウになると思ってなかった。侮ってた。大人気じゃないの。

 このライブハウスのキャパは500くらいだろうか。背伸びして、後ろを見ると入口までみっちり人が入っている。

 もうこれは出られない。終わるまでここで見るしか無いな……。荷物もロッカーに置いてくれば良かった。ショルダーバッグが邪魔だ。

 もう少し余裕を持って見られると思っていたから、想定外だ。

 転換のために暗幕が張られている。ギターやベースのチューニング音。

 トリにこれだけ人が残っている(むしろ増えている)ということは、一番人気があるのかも……こんな集客があるバンドだったとは。

 壁と人との間で身動きを取れないでいると、ふっと客電が落ちる。それと同時に女性ファンの悲鳴のような叫び。ライブが、始まる。

 照明が渦巻き、SEがテンションを上げる。視線がステージに注がれる。薄い暗幕越しに、ひとり、ふたり、定位置にスタンバイする。どれが青司だろう? 背中とシルエットだけじゃ分からない。

 SEとギターが重なった。目潰しかっていう程の照明が客席に向けられると、暗幕が一気に落ちる。悲鳴、ドラム、ギター、ドラム。すべてが鳴り出して、ライブが始まった。

「うっわ」

 後ろからギュウギュウと人が押し寄せている。もうこれ以上は前に行けません! あたしは踏ん張った。本当に失敗した。ヒールなんて履いて来なければ良かった。

「キャー!!」

 割れんばかりの声援。ほとんど悲鳴だ。なにごと。