ハイカロリーラヴァーズ


 ゆっくり話す青司を、両サイドを固めるベースのリュウセイとギターのアツシが見守っている。あたしは、ハラハラして仕方が無い。

「無気力だった俺の前に、ある人が現れた。その人はとても悩んでて、暗い表情だったのね。俺は、元気付けたくて、色々がんばったりしてさ。なんていうの、とにかく暗くて張り詰めていて」

 なんだか、まるでひとりに話しかけるようにして、青司は話している。ある人って、それって。

「でまぁ、結果的にその人はとても明るく変わったんだけど」

 青司……。

「変わったのはその人だけじゃない。俺も変わったんだ。だから、俺はがんばってここに、立ってる」

 華ちゃん、明るくなったよね。変わったよね。そう言ってくれた。暗い顔をしていたあたしに、声をかけてくれて。そして、あたし達は。

 すごく遠回りしてしまったけれど、ふたりはいま、一緒に居る。

「その人は、俺の恩人です」

 しんと静まり返ったライブハウス。みんな青司の話を聞いている。

「ありがとう。みんな、ありがとう」

 拍手が起きた。
 青司は、あたしの恩人だ。きみも、そう思っていてくれていたんだ。

「青司……せいじぃ……」

 こんなに泣いていたら、まわりに変に思われるだろうか。でも、きっと誰もあたしなんか気にしていない。みんな、ステージのメンバーを見ているんだもの。

 ラストの曲が始まって、みんながタオルを振り回し始めても、あたしの涙は止まらない。

「うう……せ……じ」

 涙で、ライトで、きみが見えないよ。

 ここから叫んでも、あたしの声は届かない。でも、きみの声は届いている。染み込んで、あたしを満たす。あたしは見ている。歌う青司、がんばる青司、泣いちゃう青司。頼れるところも、弱いところも、ずっと、見ているんだ。

 好き。もしかしたら、本当はずっと前から、気付いていたのかもしれない。

 あんまり泣いたら、瞼が腫れちゃう。メイクもきっと取れちゃってる。でも良いんだ。この刹那の空間に一緒に居られるってことを、幸せに思う。

 会場全体がひとつになって、まるで昇天したような感覚。あたしは涙を拭きながら、何十メートルも離れた青司を見ていた。

 どこを見ているのか。あたしはここ。でも、見えていなくても、あたしは分かるよ。青司がどこにいるのか。ちゃんと見えているから。