ハイカロリーラヴァーズ


 この間は暗幕があったけれど、今回は無かった。鳴り響くSEの中、メンバーが1人ずつステージに姿を現し、定位置にスタンバイする。ドラムの後ろに「crimson」とロゴの入った大きな旗。

 一番最後に入って来たメンバーで4人目。真ん中のマイクスタンドまで来る。ギターを持っている。逆光だけど、頭が茶色い。青司だ。

 数日ぶりに見るのが、こういう形。なんだか不思議。

 すっとSEが止むと、爆音で演奏が始まった。2階席のファンも一斉に立ち上がる。ベースとドラムが暴れているみたい。上から見た1階フロアは、いっせいにジャンプしていて、波打っているみたいに見える。

 それに目を取られていると、歌声がマイクで拡散される。広がって、ライブハウス内の壁にぶち当たった。低く高く、伸びやかに心地よく。そして、ドキドキする声。ギターをかき鳴らしながら。客席を煽り、頭を振る。

 他のメンバーも、伸び伸びをプレイしていた。

 電話口で泣いていたのに。子供みたいに。まるで別人だね。
 ピックを咥える仕草が、なんだか色っぽいよ。

 余計な想いが邪魔して、純粋にステージに集中できないよ。でも仕方ない。これも、普段のきみを知っているからだ。

 歌が巧いというのもあるけれど、魅力があるんだと思う。顔だけじゃなくて、なんだか惹かれる歌声。事務所の人が、この魅力に気付いてくれていることを願う。

 初っ端からアップテンポの局ばかり数曲やって、会場がはち切れそうだ。最初はあたしも座って見ていたけれど、みんな立ち上がっているから、逆に目立つと思って、こっそり立った。

 曲と曲の合間に、後ろにあるドリンクを飲んだりして、また演奏を始めるといった感じ。畳み掛けるようにゴリゴリと攻め立てる。

 そして、しっとりとしたバラード。先日のライブでも聴いたやつだ。みんな、聞き入っている。

 ライトが強い。青司がどこにいるのか分からなくなりそうだった。あそこに居るのに。

 色んなことがあった。環境も変わった。あたし達の関係も変わった。冷静に見ていられないくらい。青司は、厳しい世界に飛び込んだ。あたしは、それを支える。もう、迷わないって決めたんだ。

 ふっと、演奏が終わり、ステージのライトが点く。MCかな。喋り出しそうなベースのリュウセイが、マイクに口を近付けて、わざとニヤニヤしている。なにやってるんだろう。

「……えー……こんばんわ。crimsonです。こんな会場でやることができて、幸せです。いっぱい入ったなぁ。ねぇ、青司くん」

 せいじー! と、客席から声が上がる。話を振られているけど、大丈夫かな、ちゃんと話せるのかしら。