「ああ、あのね」
全身に力を入れて、拒絶しているあたしの耳元で、松河先生は囁いた。
「実はね、僕は誘導しただけ。池田さんが勝手に認めたんですよ」
「な……にが」
クククッという耳障りな笑いと吐息がかかる。
「ホテルに入って行くところは見てませんけど。食事中だったんでしょうかね。仲良くビール飲んでました」
「……!」
なに……。
「卑怯! カマをかけたんですね!」
「でも、外で個人的に会っていたじゃないですか。男と女の関係でもあるし」
「……!」
「もう遅いですよ。ふたりでどんな話をするんですか?」
手が頬に当てられる。そして、大きな手が、あたしの首を包んだ。
「あいつ、やる気あんのかな。サボってばっかりなんですよ。出席を取ってるわけじゃないからな……自主勉でもしてんのかな」
聞いてるのか、ひとりごとなのか。クラス担任だ。青司が真面目に授業に出て来ないことぐらい、分かってる。
「池田さんからも、ちゃんと授業に出るように言ってくださいね」
「離して……こんなこと、先生だってばれたら困るはずでしょう……!」
「あなたが黙っていれば良いことです。ほら、お互いそれで幸せだ」
「卑怯よ!」
「なに言ってるんですか。それにね、荻野は若い。あなたなんかすぐ捨てられますよ」
松河先生は、眼鏡の奥で冷たく笑っている。
「それまで、せいぜい楽しませていただきます」
「なん……」
「大人しくしてください」
反抗しようと開いた口を、唇で塞がれる。
あたしは激しく頭を振って、その唇をずらすと、思いっきり噛み付いた。
「……!」
痛みに顔を歪めている。その隙に壁と先生の間から脱出できた。
「……凶暴な女だな」
しょっぱい味が気持ち悪い。体を要求されているのは分かる。でも、こんな……。
「あたし……できません」
いまは、青司のことが好き。誰にも触られたくない。無理よ、こんなこと、できない。
「ふん」



