天才に恋をした

何もかも尽き果てた……という感じで、苗はそれから眠りっぱなしだった。

一応、食事のために起こしたけど、子供のように食べながら船を漕いでいる。

その上、熱まで出したから、帰国するのは先延ばしになった。



「医者も風邪じゃないって言ってる。疲れだろうって」

母ちゃんに電話で答えた。



「熱があるだけで、セキもない、鼻水も出てない」

「そうなんだ。じゃあ、ゆっくり休めば大丈夫そう?」

「ああ、大丈夫。また電話する」

「薬局にイワシで作ったドリンクが売ってるはずだから、飲ませてあげて。すごく効くよ」


ふーん。

外は大雨だけど特にすることもないし、ブラブラ買いに行って戻ってきた。

用量通りに希釈して、苗の部屋をのぞくと、布団をかぶって震えていた。



「どうした、寒い?」

「爆弾が落ちてくる!!」


苗は怯えたように、俺の手から布団をもぎ取り返した。


爆弾って……


「爆弾なんかないよ」

「爆弾の音がする!!」


うなされてるのか?

耳を澄ませても窓を叩く雨の音が聴こえるばかりだ。


「雨の音しか……」

「ちがう!」


布団の中から、くぐもった声が聞こえた。

「爆弾なの!」


爆弾って言われても……



「空爆のこと?あれはこんな音じゃないだろ。もっとヒューっていうような……」

「ちがうよ!ちがうよ!そんな花火みたいな音じゃない!」


苗が汗だくの顔で布団から頭を上げた。


「怖い…!」


その目は必死だった。

本気でそう聴こえるみたいだった。


考えてみたら、俺は空爆の音なんて知らない。

だけど、苗は知ってる。


「雨だよ。苗、空爆じゃない」

「えええーーーんっ!」


目を真っ赤にして、むせび泣いている。


「すごく怖かったんだな」

「こわい…うっううっっ」

「我慢してたんだな?」

「こわい……」


音楽をかけて、寝かしつけた。



また次の日には、苗の泣き声で目が覚めた。



「うわあああああああん…!」

「どうした?」

「私も連れてってー!!」

「なに?」

「おいていかないで!」


宮崎先生のことを言ってるらしい。

俺にすがりついて、何度も何度も懇願した。


「呼んだって一度も答えてくれない!お父さんは私のことが嫌いなんだ!!」

「いや、そんなわけ……」

「何でおいていくの!?うあああああっっん!!」


こっちの言うことが耳に入っていない。

泣きじゃくって、苦しみにもがいていた。


必死で俺にしがみついて、

涙と汗でぐしゃぐしゃになりながら言う。


「わかってる……これが夢だって、現実じゃないって……」


絶望に声が震えていた。


「それでもいい、今だけそばにいて……」



かわいそうで、腹が立ってきた。



なんで、苗がこんな目に遭うんだ。

天才だけど、ごく普通の女の子だったのに。

なんで、こんなに苦しまないといけないんだ。



腕の中で、うなされる度に苗を抱きしめた。


ちくしょう。

待ってろよ、世界。


俺が相手になってやる。